子どもの成長は嬉しいものですが、ふと、そのスピードに寂しさを感じてしまうことはありませんか?
「もうこんなに大きくなったのか。」という喜びと、「あの頃の姿はもう見られないのか。」という切なさが入り混じる、不思議な感覚。
先日、まさにそんな、親としての愛おしさが胸に込み上げてくる出来事がありました。
今回は、娘の予防接種で体験した、ドタバタだけど忘れられない一日のお話です。
嵐の前の静けさと、突然の逃走劇
我が家には小さい子どもたちと、お腹に新しい命を授かった妻がいます。
これからの季節、インフルエンザなどの感染症はできる限り避けたいところ。
そこで、娘に予防接種を受けてもらうことにしました。
一昨日の夜、妻が娘に優しく説明していました。
「明日はね、病気にならないための注射をしに病院に行くんだよ。」
娘はこくんと素直に頷きながら、「うん」とだけ短く答えます。
あまりに素直な返事に、「これは明日スムーズに行けるかも?」なんて、私と妻は顔を見合わせて少し安心していました。
しかし、その期待は翌日、見事に裏切られることになります。
保育園から帰ってきた娘に、「さあ、病院に行くから車に乗って。」と声をかけた瞬間、事態は急変しました。
娘は突然、玄関とは逆の方向に走り出したのです。
「病院行かない!」「もう1人で暮らすからね!」
まさかの家出宣言と共に、家からどんどん離れていきます。
これには思わず苦笑いです。
仕方なく、妻が走って娘を追いかけ、私はその間に車を出す準備をします。
妻に説得されている娘の横にそっと車をつけたことで、ようやく観念したのでしょうか。
「病院いやだ〜」と涙声で訴えながらも、なんとかジュニアシートに収まってくれました。
病院で見せた「お姉さん」の顔
あんなに抵抗していたのに、病院の待合室に入ると、娘は驚くほどおとなしくなりました。
注射が怖くなくなったわけではありません。
周りに人がたくさんいるからです。
娘は、いわゆる「内弁慶」。
人前だと、とても「いい子」で、「お姉さん」になるのです。
そんな娘の可愛らしい成長を感じながら受付を済ませると、「受付番号27番です。」と渡された番号札を、「私が持つ!」と言って小さな手で受け取りました。
番号札をぎゅっと握りしめた小さな手が、彼女の心の中の緊張を物語っているようでした。
いつもなら「この絵本読んで」とせがんでくるのに、この日は椅子にちょこんと座ったまま、静かに順番を待ちます。
気丈に振る舞っていても、やっぱり注射は怖いのでしょう。
その小さな背中が、なんだかとても健気に見えました。
涙の理由と、最高の「抱っこ」
「番号札27番の方〜?」
いよいよ、その時が来ました。
診察室に入ると、緊張した面持ちの娘に、お医者さんが優しく話しかけてくれます。
「今日はインフルエンザっていう怖い病気から体を守るために、お薬を注射するんだよ。少しだけチクッとするけど、頑張ろうね。」
娘は無言でこくりと頷きました。
「お父さん、お子さんが暴れないように、しっかり抱っこして座ってください。」
「うちの娘は暴れないよな……?」なんて娘を信頼しながらも、私にも娘の緊張が伝わったのか、少しの不安を抱えて、娘の体をぎゅっと抱きしめて椅子に座ります。
「じゃあ、いくよ。」
先生が注射器を腕に近づけます。
怖いはずなのに、娘はその針先をじっと凝視していました。
「見てると余計に痛いから、あっち向いてようか。」
私がそう声をかけた瞬間、娘の大きな瞳から涙がこぼれ、「えーん!」と泣き出してしまいました。
私の声かけは少し遅かったようです笑
「はい、終わったよ〜。」という先生の声も耳に入らないほど、娘は泣き続けています。
診察室を出たあとも、娘の涙は止まりません。
人前ではしっかりしていたい娘です。
周りの目もある中で、抱っこを求めてくるだろうか。
私は少し迷いながら、そっと聞いてみました。
「抱っこする?」
すると娘は、しゃくりあげながらも、黙って私の方に両腕を伸ばしてきました。
「お姉さん」でいたいプライドと、痛む腕に、怖さから解放された安心感。
そのさまざまな感情の末に、私に助けを求めてくれた小さな体。
その腕が伸びてきた瞬間、「ああ、まだまだ自分を頼ってくれるんだ。」という喜びが胸いっぱいに広がり、周りの目など全く気にならなくなりました。
会計を待つ間、泣きじゃくる娘を抱きしめ続けました。
私の胸に顔をうずめ、しゃくりあげる小さな振動と温もりを感じながら、「大丈夫だよ。」「もう終わったからね。」「すごく頑張ったね。」と、何度も何度も囁きかけました。
あれだけ泣いていた娘も、会計が終わる頃にはすっかり涙も乾いていました。
今、この瞬間が「人間関係の幸福」
娘は確実に成長しています。
「お姉さん」になろうと頑張る姿も増えました。
泣く時間も、こうして抱っこを求めてくる回数も、これからどんどん減っていくのでしょう。
親として、少しずつ娘の手を離していく準備をしなければいけないな、と感じた一日でした。
でも、それでいいのだと思います。
「お姉さん」になろうと背伸びする姿も、不安になって甘えてくる姿も、どちらも娘の本当の姿。
そのどちらも、今しか見られない愛おしい宝物です。
日々の子育ては、忙しくて大変なこともたくさんあります。
でも、こうして子どもの成長の節目に立ち会い、その時々の感情を共有できること。
これも立派な、何にも代えがたい【人間関係の幸福】なのだと、改めて感じることができました。
この記事を読んでくださっているあなたも、ぜひ、お子さんや大切な人との「今、この瞬間」を大切にしてみてください。
もしお子さんが甘えてきたら、「もう大きいんだから」なんて言わずに、いつもより少しだけ長く抱きしめてあげませんか?
照れくさいかもしれませんが、その温もりは、きっとお互いの心を温かい幸福感で満たしてくれるはずです。