「親孝行、しなきゃな。」
頭ではわかっているけれど、何だか照れくさくて、きっかけがなくて、つい後回しにしてしまう。
あなたにも、そんな経験はありませんか?
「もう年なんだから心配している」という一言も、喉まで出かかっているのに言えない。
特に相手が、昔は大きくて強かった父親なら、なおさらかもしれません。
きっかけは、母からの一言
先日、私は自宅の畑仕事をもっと楽にしようと、新しいホースリールを購入しました。
古いものと比べて格段に使いやすく、ご機嫌で水やりをしていたとき、ふと、7月上旬に帰省したときの母の言葉を思い出しました。
「お父さん、毎日じょうろで何往復もしてるのよ。水道から畑まで遠いから、あっついのに汗だくになってさ……。」
父も水やりに困っているらしいのです。
私が使っていた古いホースは、まだまだ現役で使えます。
「これ、親父にあげようかな。」
妻にそう言うと、「いいんじゃない?」と背中を押してくれました。
早速、父に電話で「ホースのおさがり、いる?」と提案すると、電話口の声がワントーン上がったのがわかりました。
「おぉ、くれるのか!そりゃ助かる!」と、とても喜んでくれたのです。
最近は連日、熱中症のニュースが流れています。
高齢の父には気をつけてほしい。
でも、昔から頑固な性格の父に、息子の私から「心配している」と正面から伝えるのは、どうにも気恥ずかしいものです。
このホースが私の代わりに心配と感謝を伝えてくれないだろうか。
そんな都合のよいことを考えていました。
誇らしさと、ほんの少しの寂しさと
お昼ご飯を終え、妻と子供を連れて実家へ。
帰省すると、リビングで父が昼寝をしていました。
少し迷いましたが、「おーい、帰ってきたぞー」と冗談めかして叩き起こし、一緒に外へ誘います。
「ホース持ってきたからつけに行こう。ついでに使い心地も試してみて。」
車からホースを運び出すだけで汗が噴き出すような、肌を焼く太陽。
一瞬「うっ!」っとためらいましたが、父のためにも、ここで引き下がるわけにはいきません。
父と一緒に蛇口に向かい、取り付け方を説明します。
「へぇ~。簡単だな」
ワンタッチで接続でき、まったく水漏れしないことに、古いホースしか知らなかった父は素直に感動していました。
いよいよ、ホースを畑まで引っ張っていってもらいました。
「ちゃんと畑の端まで届くかな?」そんな私の心配をよそに、父はどんどんホースを引っ張っていきます。
「おぉー、届く届く!」
畑の一番奥までホースが届いたのを見て、父が嬉しそうに叫びます。
落胆させずに済んだ安堵感からか、それとも父に少しの恩返しができた気持ちの表れか、父の隣にいるのに私も自然と声が大きくなっているのがわかりました。
「グリップを握ると水が出るよ! 先端を回すとモードが変わるから!」
勢いよく吹き出す水。
しかし、父は操作に少し戸惑っているようでした。
「どこを回すんだ?」
「これは何モードだ?」
「こっちには回らないのか?」
たくさんの質問が飛んできます。
細かい文字が見えづらいのかもしれない。
昔は何でも自分でこなしていた父が、少しずつ老いている。
その事実に、ほんの少しだけ胸が締め付けられるような、寂しい気持ちになりました。
それでも、「こうやるのか!」「これはいいな!」と、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように喜んでくれる姿は、何よりも嬉しく、これこそ私が望んだ姿でした。
しばらくの間、夢中で水やりをする父の隣で見守ります。
そして、今だ、と思いました。
「最近は熱中症も心配だから、あんまり無理しないようにね。」
聞こえているのかいないのか、父は水やりに夢中です。
それでも、以前ならきっと言えなかった一言が、私の口から自然とこぼれ落ちました。
親を本気で心配するようになった私。
息子に心配されるようになった父。
その関係性の変化に、嬉しいような、寂しいような、誇らしいような、恥ずかしいような。
そんな不思議な気持ちになりながら、水やりに精を出す父の背中を残して、私は先に家に戻りました。
つないでいく、ということ
家では母が「ありがとうねぇ」と改めてお礼を言ってくれました。
「毎日の水やりがなくなるだけで、こっちも安心だよ」
母の心配も、少しだけ軽くできたようです。
やがて、父も日に焼けて真っ赤になった頬を上気させながら、満足げに帰ってきました。
「野菜たちがびっくりしないように、周りから少しずつ水をかけてやったんだ。」
ニコニコと、楽しそうに水やりの様子を話しています。
父を心配するようになった。
父に感謝されるようになった。
父に「おさがり」をあげられるようになった。
それは、私が少しだけ大人になり、与えられる側から与える側へと成長できた証なのかもしれません。
両親には本当に良くしてもらいました。
だから、できるうちにたくさん親孝行をしたいです。
もちろん、そんなことを口に出せば、両親はこう言うでしょう。
「私たちに返さなくていい。自分がしてもらって嬉しかったことを、自分の子供にしてあげなさい。そうやって、つないでいくんだよ。」
だから、言葉にはしません。
それが、私たち家族の心地よい距離感なのかもしれません。
だから、行動あるのみ。
自分が満足できるまで、私なりのやり方で、この幸せな関係を大切にしていきたい。
そう強く思った夏の午後でした。
あなたも、小さな「おせっかい」をしてみませんか?
この記事を読んで、少しでもご両親の顔が思い浮かんだなら、ぜひ小さなアクションを起こしてみてください。
何も、高価なプレゼントを用意する必要はありません。
○「最近どう?」と、短い電話を一本かけてみる。
○実家に帰るついでに、好きだったお菓子を買っていく。
○スマホの操作など、ご両親が苦手そうなことを「手伝おうか?」と声をかけてみる。
そんな、ちょっとした「おせっかい」が、思いがけない幸福な時間につながるかもしれません。
照れくささの向こう側にある温かい気持ちを、あなたも感じてみてください!