ご近所付き合い、得意ですか?
私は正直、あまり得意な方ではありませんでした。
会えば挨拶はするけれど、そこから一歩踏み込んだ会話に発展することは滅多にない。
そんな私が、今日、ある出来事をきっかけにご近所さんとの距離がぐっと縮まり、幸福のスパイラルに巻き込まれることになったのです。
突然のおすそ分けに「申し訳ない」
今日は、妻が下の子と一緒に、上の子のお迎えに行きました。
その間、私は夜ご飯の準備です。
メニューは夏野菜カレー。
娘が帰ってきたら一緒に作れるように、野菜の皮むきだけ済ませておこう、とジャガイモを手に取った、その時でした。
ガチャリ、と玄関のドアが開く音。
「パパー、畑行くよー!」
元気な娘の声が響きます。
何のことかと思い玄関に向かうと、外の暑さを物語る真っ赤なほっぺをした娘が、ニコニコ笑顔で立っていました。
「なんで畑?何しに行くの?」
「ナス取りに行くって言ってたでしょ!」
すっかり忘れていましたが、そういえば昨日、そんな約束をしていたような…。
子供との約束は絶対です。
慌てて準備をして外に出ると、お隣さんが黙々と畑仕事をしていました。
「こんにちはー。」
娘と一緒に挨拶をして、私たちも畑へ。
娘は小さな手で一生懸命ナスをもぎ取り、その後の水やりでは案の定びしょ濡れに。
「もう、帰ってお風呂だね」と笑いながら家に入ろうとした、その時でした。
「これやるわ。」
背後から、ぶっきらぼうな声がかかりました。
振り返ると、先ほどのお隣さんです。
玄関にドサッと何かを置きました。
枝豆です。
それも4株も。
「これもね。」
さらにぐいっと渡されたのは、立派な大玉トマトが2つ。
「え、いいんですか!?」
あまりのことに、思わず声が大きくなってしまいました。
いつも挨拶を交わす程度で、ほとんど面識がないと言ってもいいお隣さんです。
「食うだろ?」
相変わらず短い言葉で、少し不機嫌そうにも見える表情。
しかし、私が「はい!ありがとうございます!でも、こんなにもらっちゃって申し訳ないです。」と満面の笑みと気まずい表情で返事をすると、堰を切ったように話し始めました。
「いいんだよ。でもこのトマトは普通のトマトと違ってね、私は酸っぱいトマトが苦手だから甘い品種なんだけど、今年はちょっと色が……」
こんなに長くお話ししたのは初めてで、少し驚きました。
娘は人見知りを発動して私の後ろに隠れてしまいましたが、何度も何度もお礼を言って、いただいた野菜を抱えて家に戻りました。
「申し訳ない」はループする
妻に枝豆とトマトを見せると、案の定「えぇー!」とびっくり。
そしてすぐに、「これはすぐにお礼を言いに行かなくちゃ」と、下の子を抱いて立ち上がります。
そうだ、お返しだ。
先日、お返しをすることの大切さを学んだばかりの私。
何かお返しできるものはないかと家の中を探しますが、すぐに渡せるような気の利いたものが見当たりません。
とりあえず妻に続いて玄関に向かうと、ふと、そこある段ボールの存在を思い出しました。
去年の秋に収穫し、大切に保存していたサツマイモです。
「去年のものを渡すなんて、失礼じゃないかな…?」
一瞬、不安がよぎります。
でも、このサツマイモはもう何本も食べていて、味には絶対の自信があります。
「やらないで後悔するより、やって後悔だ!」と、私たちは家族全員でお隣さんの畑へ向かいました。
「さっきはトマトと枝豆、本当にありがとうございました。子どもたち2人ともトマトが大好きなんです。これ、もし良かったら去年のですが、うちで採れたサツマイモなんですけど…」
そう言うと、お隣さんは少し驚いた顔で、こう言いました。
「あら、お子さんが2人いなさるの。お返しなんていいのに。逆に申し訳ないねぇ」
まただ。
「逆に申し訳ない」
お返しをすると、いつもこの言葉が返ってくる気がします。
いただいた枝豆とトマトの量に比べたら、サツマイモなんてささやかなお返しなのに。
「土と汗で汚れてるから、子どもに近づけないわ」
そう言いながらも、お隣さんの目は優しく子どもたちを見つめていました。
ぶっきらぼうだけど、本当は子どもが好きなのかもしれない。
また会う機会があったら、たくさん子どもの顔を見せてあげようかな。
そんなことを考えながら、私たちは家に帰りました。
娘をお風呂に入れようと服を脱がせ、私も脱衣所で服を脱いでいる、まさにその時でした。
ピンポーン。
インターホンが鳴り、妻が玄関へ向かいました。
妻がいなくなったことに気づいた下の子が、火がついたように泣き始めます。
その泣き声を聞きながら待っていると、妻が戻ってきました。
その手には、さらに2つのトマトが握られています。
「『子どもがトマト好きだって言ってたから』って、もっとくれたの!」
なんと、またおすそ分けがやってきました笑
せっかくもらったものだからと、泣き止まない下の子の口に、早速切ったトマトを放り込みました。
なんと、ピタッと泣き声が止まりました。
上の子にもあげてみると、無言で親指をグッと立てています。
4歳児渾身のグーサイン。
どれどれと私も一口。
…甘い!
驚くほどの甘さが口いっぱいに広がりました。
しかも香りが青臭くないというか、トマトらしさがない、今までに食べたことのないトマトだったんです。
「本当に美味しかったね。今度会ったら『美味しかったです』ってちゃんと言おうね。」
娘とそんな話をしながら、温かいお風呂に浸かりました。
「逆に申し訳ない」の正体
お風呂の中で、私は考えていました。
子どもがトマト好きだと言ったのは本心で、決して催促したつもりはなかった。
でも、サツマイモを渡したことで、かえって気を遣わせてしまったのかもしれない。
「……逆に、申し訳なかったな。」
そう思った瞬間、ハッとしました。
お返しをもらった人が口にする「逆に申し訳ない」という気持ちの正体はこれか。
相手の厚意が嬉しくて、でも自分はそれに見合うものを渡せていないと感じる、大きな感謝と少しだけもどかしい、この気持ち。
この気持ちの交換こそが、人と人との関係を少しずつ温めていくのかもしれません。
これが、お金では買えない豊かさかと実感しました。
スーパーで野菜を買うだけでは決して味わえない、温かい気持ちのやり取りが、そこには確かにありました。
そもそも、なぜ私たちはこんなにおすそ分けをいただけるのでしょうか。
積極的に地域に貢献しているわけでもないし、特別に仲が良いわけでもない。
冷静に考えてみても、思い当たるのは、毎日交わす挨拶と、「家庭菜園」というささやかな共通点くらいでした。
きっと、ご近所の皆さんから見れば、数年前に越してきて家庭菜園を始めた私は「後輩」のような存在なのでしょう。
だから、何かと気にかけてくれるのかもしれません。
この「後輩」というポジションに甘え続けるのではなく、いつかは私も誰かに何かを与えられる存在になりたい。
そうして、この温かいコミュニティにもっと溶け込んでいきたい。
今回の出来事は、私にそんな新しい目標を与えてくれました。
これが、私が感じた【社会的な幸福】です。
自分が属しているコミュニティの中で、ささやかなやり取りを通じて心が通い合い、自分の居場所を実感できること。
それは、決して特別なことではなく、日常のすぐそばにありました。
あなたの【社会的な幸福】を見つけるヒント
もし、あなたが「ご近所付き合いは少し苦手…」と感じているなら、難しく考える必要はありません。
まずは、笑顔で挨拶をすることから始めてみませんか?
もしご近所さんのお庭がキレイなら、「いつもキレイですね」と、一言声をかけてみるのもいいかもしれません。
私なんて、「草取り頑張ってますね」と言われただけで嬉しくなって口数が多くなってしまいましたから笑
頑張っていることを見てもらえているのって、意外と嬉しいものです。
お返しをするときも、高価なものである必要はありません。
「美味しかったので」「珍しいものを見つけたので」そんな一言を添えて、ささやかな気持ちをおすそ分けする。
私自身、今日の一歩を踏み出したことで、お隣さんと顔を合わせるのが少し楽しみになりました。
そんな小さな変化が、さらなる思いがけない幸福のスパイラルを生み出すきっかけになるかもしれませんよ。
【社会的な幸福】の高まりは、自分にとって居心地の良い居場所を作ってくれます。
それは、あなたの人生を温かく、そして生きやすくしてくれるのではないでしょうか。